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夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

1作目「老歌手」でのラストシーンで一気にこの短編集が好きになりました。大物シンガーとして栄華を極めた初老の男性とトロフィーワイフの愛情関係に差し込む黄昏は微笑みながら泣きたくなるような複雑な感情に陥りました。
特に印象に残っているのが「モールバンヒルズ」です。簡単でない音楽の道を目指す若い主人公の目線で読み進めていくと、ふと驚く程に悲しい視点で外国人夫婦の関係の歪が垣間見えます。
今目の前にある問題が問題となっているのではなく、その問題を通して夫婦間に確実に存在している大きな心の問題が露呈されるという部分に共感しました。
そしてその、解決や改善が困難な大きな問題を外側から見てしまった若者や、その若者が将来音楽家として抱えていくであろう問題を見ている夫婦、という二重にも三重にもなった視点を与えられる作品です。
ユーモアに溢れて読みながら笑い声が出てしまったのは「夜想曲」でした。
取ってつけた組み合わせながら協力関係を結び危機を逃れたり、必死になってしまうあまり一触即発の喧嘩をしてしまったり、性別も立場も年齢もおよそ似つかない二人の会話や心情の揺れが爽快な作品でした。
その他2作を含めて各作品とも音楽と、人生の黄昏が侘しく温かく、切なく丁寧に描かれていて読んで心地よかったです。